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士業(サムライ)日記  専門家集団・丸の内アドバイザーズのブログ

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円高倒産と為替デリバティブ 

【円高倒産と為替デリバティブ】
by 岩松琢也

 公認会計士・税理士の岩松です。

 8月4日の日本経済新聞の朝刊で、円高による中小企業の倒産が急増しているという記事がありました。この記事によると、円高の影響で倒産した企業は、円高によって価格競争力が落ちた輸出関連の企業だけではなく、本来円高がプラスに働くはずの輸入企業でも、金融機関と結んでいた為替デリバティブ取引による損失で倒産に追い込まれる企業が相当の割合にのぼるということで、むしろ後者の方に力点がおかれた記事でした。

 私自身も、為替デリバティブ契約についてはたびたび相談を受けておりますが、以下は、つい先日ある会社から相談を受けたケースです。

 その会社はドル建ての輸入取引を行っているのですが、ドル建ての仕入債務について為替のリスクをヘッジしたいと思い、取引先の銀行に為替予約をしてもらっているということでした。ところが、その為替予約によって為替差損が多大に生じており、現在解約の協議をしているというのがご相談です。為替予約をしているのに為替差損が多大に発生というのはどういうことかと思いつつ、その為替予約についての資料を見せてもらうと、為替予約ではなく、為替デリバティブ取引の契約が結ばれておりました。その為替デリバティブ取引は、3年くらい前の時期から何本か契約されており、契約時点のレートから円安が進むと会社に利益が生じるものの、逆に円高に振れると会社に損失が生じる内容のものでした。最近のレートでは年間1千万円以上の損失が発生しており、現在銀行に違約金を支払ってでも解約をしようかと協議しているところだということでした。
 
 資料や説明を聞いて、私は為替予約と為替デリバティブとが混同されているような疑問を抱きました。というのは、会社は、銀行には為替予約をお願いした、と言っており、資料にもすべて「為替予約」とメモしてあります。経理の担当者が作成したエクセルのシートのタイトルにも為替予約とあり、会社は明らかにそれを「為替予約」だと思っているのですが、実際に結ばれているのは紛れもなく為替デリバティブ取引です。

 何故、このような誤解が生じたのかという疑問は、社長と銀行との面談に同席した際に解けてきました。以下はその際のやりとりの要約です。

私:「会社は為替予約の契約をお願いしたと言っているのですが、これはスワップ契約ですよね。会社の希望と、実際に結ばれている契約内容とが整合していないと思うのですが?」

銀行担当者:「いいえ、これは為替予約です。」

同席していた銀行担当者の上司:「(慌てた様子で)たしかにこれは『為替予約契約』そのものではなく『スワップ契約』ですけれども、為替予約の効果がありますので、ご要望どおりのお取引となっております。」

私:「しかし、会社としては、ドル建ての仕入債務の為替リスクをヘッジするために『為替予約契約』を結びたい、とご依頼したはずなのですが」

銀行担当者:「ですからこれは為替予約と同様に為替リスクをヘッジする効果がありますし、この会社様の輸入の取引規模だと、むしろ現在の2倍くらいのご契約をする必要があると考えております」


 つまり、会社が為替予約について相談したのに対して、銀行の担当者は為替予約と同様の効果があるとして「スワップ契約」を提案し、会社はそれを為替予約と誤解したまま契約した、ということです。
しかし、銀行の担当者は、このスワップ契約を、会社の希望しているとおり為替リスクをヘッジする効果がある商品だと言っておりますけれども、実態はそうではありません。

 会社はドル建ての輸入を行っておりますので、為替が円安になると損失を被ることになります。そこで為替予約の相談を行ったわけですが、その相談の本質は「為替変動により予測できない損失が発生するリスクをできるだけ軽減したい」ということです。また、取引のサイトは注文、製造、仕入、決済まで数ヶ月間ですので、おおよそそれに対応する期間の為替の変動に対応することができれば、会社の希望にかなうことになります。

 それに対して、銀行の提案したスワップ取引は、為替が円安になった場合は、会社に利益が発生しますが、逆に円高になると会社に損失が生じます。そして、円安の場合は一定以上の限度を超えると契約が解消されるという条件があるので、会社の利益は一定の範囲に収まるのに対して、円高の場合はそうした限度が設けられておらず、無制限に会社に損失が発生することになっています。従いまして、為替が円安になった場合は、確かに為替のリスクを軽減する効果が現れるのですが、逆に円高に対しては無制限のリスクが発生してしまっております。これでは、「予測できない為替リスクを回避したい」という本来の会社の要望を満たすどころか、返ってリスクが大きくなってしまっています。

 さらに、実際の取引のサイトに対して、このスワップ契約は3から5年の期間となっており、途中解約には多額の違約金が発生するとしてあります。しかし、3から5年後の為替がどうなっているかというのは専門家でも予測は不可能でありますので、バクチ同然と言っても過言ではありません。その会社の取引サイトは、一つの取引につき商談を始めてから最終的に商品を受け取って代金の決済が終わるまで、およそ半年くらいですので、それに対応する期間の為替の変動をカバーできればいいのであって、3から5年先の円高リスクを無限に負うようなバクチを打つ必要は全くありません。

 おそらく銀行の担当者は、会社の言った「円安のリスクを予約でヘッジしたい」、という額面の言葉だけを取り上げて、円安リスクをヘッジできるから、と言って為替デリバティブ取引を提案したものと想像されます。当然、単なる為替予約よりも為替デリバティブの方が銀行にとっては儲かる、というのが理由でしょう。それが実質は会社の要望と整合していないことは上記のとおりです。

 担当者により例外はあるかもしれませんが、銀行はいわば金融商品(預金や融資、投資信託や生命保険など)の販売店のようになってきていて、都銀のように大きなところほどそういう傾向が強いようです。うっかりすると命取りになることもありますので、過度に信用して提案を鵜呑みにするのではなく、外部の専門家に相談するなど慎重に検討していただくことが必要だと痛感しております。

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